2023年7月 北九州水害ボランティア 

九州災害ボランティア 2023 年 7 月 8 日-12 日

                       (社)神戸国際支縁機構 代表 岩村義雄

2023年7月10日 午後3時 福岡県久留米市北野町

毎年繰り返される洪水 2023 年 7 月 10 日,九州北部の水害で 9 名の死者。
一面海。久留米市北野町のビニールハウス一帯が沈んでいる 1)。水しぶきを上げながら走る車もあるが,無謀である。脱輪して立ち往生している。逃げるのが必死で停車する車もない。水田なのか,海なのか,川なのか区別がつかない。筑後川はあふれている。

 

(1) 九州一の都会を襲った水害
消防団の人は近年こんな水被害を経験したことがないと言う。午前 3 時半頃から多雨でないのに洪水に見舞われた。ニュースでは朝倉市の寺内ダムの放流のために水がひかない,と住民は不安げに語った。
熊本・大分地震(2016 年 4 月 14 日)発生直後から愛児園で炊き出しに仕えてから行動を共にしている大島健二郎熊本支部長と 5 人は福岡県糟屋かすや郡片峰新橋近くの宇美(うみ)川があふれている河岸を訪問。10 日午前 8 時に,志免町全体から住民は避難するように警報がけたたましくスマホにはいってきた。福岡市内 7 区の延べ 9 万 1817 世帯,18 万 9858 人を対象に避難指示を出していた 2)。
その志免(しめ)町に退去警報が流れていた。その日,久留米市などの家屋を呑む濁流の原因である寺内ダム(福岡県朝倉市)の放流を撮影記録した。すさまじい轟音のダムは雨の流入量と同じ量を放出していた。

福岡県糟屋郡志免(しめ)町 宇美(うみ)川の増水。7月10日午前8時。

 畑(はた)ダム,寺内ダムの放流についてはほとんどのニュース報道がなされていなかったようだ。洪水,土砂災害,浸水害の緊急避難警報が発令されている。水量があふれていた。
動画をご覧ください。
深夜 3 時ごろから雨が降り始めた。地元の方も今までにない初めての濁流に驚かれていた。
水位が上昇した耶馬溪(やばけい)ダムは洪水調節を行った。その結果,山国(やまくに)川の下流で中津市耶馬渓町に住む会社員の奥知恵美さん(58 歳)が沖合で見つかった。
毎年 7 月上旬の水害はエルニーニョ気象,地球温暖化,線状降水帯などのせいと結論するのは早計ではないだろうか。現代の人間社会が経済グローバリゼーション追い求める中で,大きな工場を稼働させるための「水」,便利な生活をもたらす「電気」。山の生態を損なう核家族による住宅開発の諸悪の根源がダムにあること,目覚める必要があろう。
7 月 10 日,正午を過ぎると,久留米市善導寺町は孤立していた。道路は冠水し,車は立ち往生。島地域は,浸水深最大約 3.8mという。住民の多くは,「これまでにない」水害だと,首をかしげていた。

 道路は遮断され,行き来が止まった。熊本・大分地震(2016 年 4 月 14 日)発生直後から愛児園で炊き出しに仕えてから行動を共にしている大島健二郎熊本支部長と 5 人は善通寺で支縁物資を積み込んで被災家屋を見舞った。

(2) ダム安全神話から脱却できない日本
現場まで通行が寸止めになっている箇所を迂回するために,ナビは役に立たない。耳をつんざく激しい放流の音で会話ができないくらいだった。これだけの放流をとりあげている新聞も地元紙,それも 1,2 行なのではどうしたことか。
国土交通省(以後,国交省)からのかん口令がしかれているとしか考えられない。

寺内ダムの放流。7 月 10 日午後 4 時 大島健二郎撮影。

ダム放流をとりあげたのは,全国紙でも読売新聞一社だけのようだ。コンビニでもなかなか入手できなかったので全部を確認したわけではない。
上水用に北九州市が所有する畑ダム(八幡西区)も 7 日午前 10 時半から放流を開始。下流にある学校を通じ,子どもたちに河川に近づかないよう注意を呼び掛けた。『西日本新聞』(2023 年7月 10 日付)。
『熊本日日新聞』(2023 年 7 月 11 日)が寺内ダムの「緊急放流」をわずか 3 行,それも目立たない報道の有り様である。
日本のメディアは官僚国家に統制されているとしか言いようがない。

畑(はた)ダムの放流を撮影。2023 年 7 月 9 日。

(3) 防災とは自助に頼れと言わんばかり
2020 年 7 月 4 日,球磨川(熊本豪雨)が市房ダムの放流によって,人吉市はドロ出しで覆われた。関連死を含め 81 人の死者・行方不明者を出した。紺屋町にあった営業 44 年の藤本豊彦(75歳)&サカエ夫婦の経営するラーメン屋も 2 階にまでドロが覆った。私たちも 3 年前,二階に案内され唖然とした。2023 年 7 月 4 日再オープンしたばかり。5 人でおいしい味をたんのうした。

2023年7月11日 人吉市 ラーメン竜の藤本豊彦&サカエ夫婦

 佐賀県大町町にお住まいの今村佳代子さん。独居でいらっしゃるだけに,六角川(ろっかくがわ)の氾濫によって 2 回すんでのところで助かった。近所の飼い犬はすべて死んだ。抱っこされているチャマだけが生き残った。7 月 10 日,今回も避難の用意をなさっていた。

左から大島健二郎,今村佳代子さん,野田健二,佐々木美和

<結論>
今回の北九州の水害について,日本政府は「激甚(げきじん)災害」the designated disaster of extreme severity を適用しなかった。毎年,おびただしい災害がおこるたびに,「激甚」なる言葉が乱舞してきた。
さて,激甚という言葉を海外で用いる際,適切な英語はあるのか。3)
海外の地震,サイクロン,洪水などの被災地にも足を運んでいる。10 年前の 2013 年 7 月 21 日から中国の四川省の地震被災地を訪問した。1000 人超を越える死傷者が出た。その時でも「激甚」なる表現を耳にしなかった。
同行した中国人の大学教員に説明できなかったことを今でも忘れることはできない。日本の権力者は,天災だから不可抗力なんだ,あきらめなさい,と持ち込んでいるのではと,勘ぐってしまう。諦観のエートスを刷り込むために用いるひとつの弁法に,「激甚災害」,「線状降水帯」,「○○前線」という表現が乱舞する。安全神話の典型であった原子力発電所が真っ赤な偽りであったことを私たちは教訓を学んだだろうか。
今,また福島県沿岸に放射能汚染水の放流がまかり通っている。「国際原子力機関」(International Atomic Energy Agency IAEA),EU や韓国の指導者たちも是認するようになった。フクシマの地元の人たちですら安全でないと叫ぶ食品を世界は購入するという。

 九州から神戸に戻って,今度は北陸,東北地方も梅雨前線で市街地が冠水,土砂崩れ,河川氾濫の見出しが新聞に踊る。氾濫した河川の上流にどんなダムがあるかをすぐに確認すればよい。
ダム放流について見出すだろう。2018 年 7 月 7 日,岡山県倉敷市真備(まび)町箭田(やた)の洪水発生と同時に第二福田小学校に炊き出しに訪問。6 メートルを超える水害のため死者 59 人,行方不明 8 人の犠牲者が出た。海岸から 10 キロ以上離れた内陸での洪水である。河岸の堤防決壊にしてはおかしい。上流の成羽(なりわ)川ダム 4)に神戸国際支縁機構の松本真祐さんらと一緒に訪問し,ダム事務所長から放流の事実を確認した。瀬戸内工業地域に必要な工場用水のためにあるダムの放流により途中の高梁川流域でも家が流され,犠牲者が出ていた。同年,9 月,レバノンから北海道に直行した。マグニチュード6.7 死者 42 名,負傷者 762 人が出た。「苫東」(とまとう)」は北海道苫小牧東部に位置する日本最大の工業基地である。工場用水用に建設された厚真ダムがある。日本の経済成長,発展のためにはダムは欠かせない存在なのだ。現場に行き,目撃したのは地震ではなく,厚真ダムからの放流 5)によるおびただしい木々の流木が北海道厚真川地区[厚真町・安平町(あびらちょう)・むかわ町]を襲っていた。
ダムを海外のようにつくらないようにすることは言うまでもない。河川工法 6)も見直さなければならない。
住宅地を守るためには川をゆっくり流れさせる防災の視座を政・官・財・学,メディアは覚醒してもらいたい。コンクリート工法で河岸,底を固めず,古来からの石積みならば水の流速を落とす効果があろう。水をやりすごすようにすることを提言したい。すると水棲生物も蘇生し,郷土も復興するだろう。「田・山・湾の復活」である。都会から若者たちが戻り,少子化対策にもつながろう。子々孫々に美しい田舎の風景を残すことにも繋がることを願う。
最後に,水害,地盤のゆるみ,山の崩落など 10 年以上,共にくぐりぬけている村上裕隆代表の運転さばきのおかげで,通行遮断などで身動きができない場も円滑に移動できたことを感謝したい。

出典
1) 北野地区,推定でハウス 4 万㎡冠水 『西日本新聞』(2023 年 7 月 17 日付)。
2) 『西日本新聞』(2023 年 7 月 10 付)。
3) 和英辞典にもない言葉。私は“Scientists predict intersification of ratural disasters in Coming years”に出ていた“intersification of ratural disasters”を用いた。
4) “キリスト教と災害(2)「災害」から「復興」へ” 『クリスチャントゥデイ』(2020 年 4 月 22 日付)。機構は第4次西日本豪雨ボランティアで訪れた8月7日,小田川,高梁(たかはし)川の上流をさかのぼり,成羽川(なりわがわ)ダムまで行った際,途中でダムの放流にのまれた町々を見ながら,傾聴ボランティア。真備の水害の原因について裏付けを発見。真備の被害は成羽川ダム放流が原因だと,第4次西日本豪雨ボランティア報告。SNS,ウェブで発信したが,どなたも耳を傾けなかった。しかし,無視をしておられた真備の住民たちは半年後,国や県,市,中国電力を相手取り岡山地裁に損害賠償訴訟を起こす方針を決めた,と毎日新聞(2019年12月16日付)は報道。
5) 2018 年 9 月 6 日(水)3 時 7 分,マグニチュード 6.7 厚真地震(死者 42 名,負傷者 762 人) 「苫東(とまとう)」は北海道苫小牧東部に位置する日本最大の工業基地の工場用水のために厚真ダムがある。日本の経済成長,発展のためにはダムは欠かせない存在なのだ。「技術至上主義は自然災害をもたらす―第 1 次北海道地震ボランティア報告―
6) 拙論『福音と世界』誌(2022 年 12 月号 30-35 頁)。

 

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