東日本大震災がもたらした日本の心の時代

2011年5月29日

神戸国際支縁機構 代表岩村義雄 Ⓒ

 

 今年3月11日午後2時46分,発生した未曾有の災害。死者,行方不明者数は3万人近くになっています。そんな日本大震災においても,阪神淡路大震災においても,あれだけの大混乱でありながら略奪行為も暴力行為もなく,極めて困難な状況の中で被災者自身が助け合っている日本人の姿は,世界中に驚きと感動を与えました。 とりわけ隣国の中国では日本人の行儀良さの行状を絶賛しました。

 日本だけでなく,世界各国からも多くの方々が,すぐさま自分にできることを見つけて,積極的に支援に動いたことは尊いと信じます。「少しでも役に立てるなら」ばと,時間,体力,義援金など寛大に捧げました。

 試練にあって,信頼できるものとは,何よりも人と人との心のつながりです。逆境にある人々に寄り添って,分かち合い・支え合い・補い合おうとしています。まさに心に根ざした人間同士の生きる姿です。

 16年前の阪神淡路大震災のボランティア元年と言われました。以来,日本の多くの人々は感情移入を積極的にとらえるようになりました。しかし,今回の東日本大震災,フクシマ原発の人災は,今までのように他者と共生していくという意識以上の何かを日本人に覚醒させつつあります。

 「私たちは何か大事なことを見失ってきたではないか。」
 「このままだと国も社会も,思いも寄らない瀬戸際に立たされてしまうのではないか。」
 「国自体がなくなってしまうのではないか。」

 今,日本のあちらこちらの風の息づかいとして耳にする流れです。多くの人が漠然とではあれ,そう思い始めています。

 東日本大震災の被害のすさまじさに涙し,フクシマ原発の事態に恐怖と不安に押しつぶされそうになりながら,市民は政治や社会に変化を求め,自らも変化しなければならないと思い始めています。

 この国も,会社も,私たちの家族のライフスタイルも,今まで通りに安定し,繁栄していく見込みは極めて厳しいと感じ始めています。

 東日本大震災,フクシマ原発の惨事が起こる前から,国全体が疲れてきっていたことも見逃せません。労働者の所得は2001年以降でも,大幅な減少を続けています。年間200万円以下の庶民,つまり,ワーキングプア(working poor)は1,000万人を越えています。(厚労省「平成18年度国民生活基礎調査の概況」)。“ネットカフェ難民”,日雇い(スポット)派遣など,貧困から脱出できない負の連鎖が問題になっています。相対的貧困率は2006年には,15.7%であり,先進国とはとうてい言えません。格差・貧困が改善されたという実感はだれも抱いていません。むしろ悪化の一途を辿っていたでしょう。低所得者層の多くはただ暮らしていくことに追われ,社会は明らかに疲弊しています。年金制度や社会保障への不信から,中間所得層までも財布のひもも引き締めています。老後の設計のために浪費せず,経済社会の血液であるはずの金銭は循環することもない心筋梗塞の状態です。近代国家においては「富の再配分」の役割を担うはずの税制も,日本では停滞前線です。OECD(経済協力開発機構)から税制の問題点を指摘されても,政府は重い腰をあげていません。

 2009年,衆議院選挙に際して「コンクリートから人へ」とのキャッチフレーズに,民は政治に期待を託しました。政権交代が実現という選択を民は歓迎しました。鳩山由紀夫政権は「温室効果ガス25%削減」など理想の高さと人柄の良さは新鮮だっただけに,普天間問題など大きな失望を与えました。続いて,管直人総理は,既得権を手放そうとしない官僚などの勢力に取り込まれたのか,増税などを発表し,いともあっさりと市民を裏切りました。

 国債の発行に関しても急激に増えています。小泉政権発足前の2000年度末の借金総額は380兆6546億円から,今や1100兆円を越えてしまいました。私たち一人当たり860万円以上の借金を抱えていることになります。昇給は止まり,リストラ,給与,ボーナスカットも当たり前になっています。庶民の生活はしわ寄せを受けています。食べるための犯罪も増えています。世界一安全の国ではなくなり,「刑務所が不足している」,治安悪化が神話になりつつあります。

 1980年の日本のGNPは二倍に成長しています。しかし,税収は消費税分を差し引くと増えていないのです。高所得者層や大企業は何十年も減税の恩恵を享受してきています。1980年に約14兆円であった国債発行額が2010年には,160兆円にふくらみました。国債を購入する層は金持ちです。一般の銀行などよりはるかに良い利息がつきます。だれがその利息を払うかというと,国民のひとりびとりが負担しているわけです。裕福な者は繁栄を享受し,庶民の生活はますますしめつけられていることになります。

 目下,被災者やフクシマ原発問題への対応はあまりにもお粗末であり,政府はすでに存在意義を失っていると言っても決して言いすぎではないでしょう。

 メディアなどを通して聞き及ぶのは内閣の無能さだけではありません。背後で隠然たる力を保持している勢力です。つまり官僚機構です。電力会社や金融機関などほとんどのグローバル資本の企業に天下りしています。利権の蜜を吸いながら,相互に有形無形の癒着構造ができあがっています。とりわけ原発と結びついた利権集団は市民の心情や人生とは無縁なところで庶民の台所の事情などおかまいなしに利権勢力は成長をとげてきたことは誰の目から明らかになってきました。なぜならフクシマ原発の世界的危機のまっただ中において東京大学の御用学者を宣伝塔に用いた政治家,経産省,文科省,電力会社の態度,対応を見て民衆はうんざりしています。

 しかし,この国難の時代,電力会社の片棒をかつぐような発言はいい加減にしろと言うのが偽らざる市民たちの怒りの声です。もしそのKYがわからないとするなら政治家は失格でしょう。

 明治維新以降の150年,利権的官僚機構を解体し,「市民のために自分の名声,富を度外視して仕える公務員」の道を進んでもらわねばなりません。東北の被災地で,多くを失った行政で昼夜分かたず働いている方々の中にそうした官吏が多くおられる姿を見ることができます。

 今の日本には,民の福祉,人権,生存権を第一にする気骨ある政治家が必要です。政権与党でなければ政策を実施できないと派閥,徒党を組む弊害を明治維新以降,民衆は繰り返し見せつけられ,辟易としています。たった独りであっても正義を主張する政治家を抹殺しない議会でなければなりません。農民や,弱者のために,命がけで国策を実行する政治家を育てる風土が日本にはなかったことも悲しむべきことです。今や,政治への不信は大きいのです。されど,民衆の多くは「民の生活を第一」の政治を願っています。多くは「すべり台社会」の恐怖におびえ,格差に不満と焦燥を抱き,将来への希望をもてていないのです。長年にわたって社会は疲れ切っているのです。そのあげくが東日本大震災とフクシマ原発のとどめの出来事です。

 田中正造[1841-1913]議員のように,政治家がこの危機存亡のおりに,わが身を捨てて打って出れば,支持する民衆は多いのです。しかるに,未曾有の困難にあっても政治家が依然として電力会社の利権に貪り,何の変化も示さず,あいかわらず永田町の論理でしか動かないなら,いかに封建時代から従順,勤勉に飼い慣らされてきた日本人でもいつまでも泣き寝入りするわけにはいきません。

 幸か不幸か,今日,組織に属さずセーフティネットから脱落したフリーターや,ネットカフェ難民,「路上で生活をしている人」たちは政治に守られることもなく,今の世の無常,搾取,抑圧を骨身にしみて味わってきているのです。政治家,官僚や大企業がいつまでも既存の経済システムの維持に汲々とし,己れの利権と立場の確保に執着しているなら,アラブドミノと同じようにマグマのエネルギーによってふるわれることでしょう。「想定外の転覆」ではないことでしょう。

 原発をなくすなら,電力はたちどころに停電を余儀なくされるなど電力会社の偽りをいつまでも信じ込まされる民衆は,無知ではありません。京都大学の小出裕章教授は,電力が不足するのは嘘と論及しています。アカデミックな根拠なく,小出説の真実を切り捨てようとするなら,そこには,正義はありません。個人的には石破茂さんや,与謝野馨経済財政担当相などを以前は国の変革には大切と考えていました。しかし,一連の原発発言を通じて失望しました。日本の新しいクリエイティブな心を大切にする国作りになんの有用さを少しも見出さないどころか,むしろ利権の代弁者にすぎないと市民は愛想を尽かしています。

 今朝の新聞に,福島県飯館村で,放射性物質を吸収するひまわりを栽培する記事が出ていました。5月1日から第2次で宮城県石巻市渡波町にボランティアで赴いた際も,ひまわりの種を現地に贈呈しました。しかし,ひまわりが土壌中の放射性セシウムを吸い上げる効能など知る由もありませんでした。

 農林水産省と福島県は農地除染の実証実験を始めたのです。

 妊婦や子供たちの内部被曝だけは避けなければならないでしょう。土壌中の微生物や海水中・空気中の微生物が活性化することによって,除染したり,放射性物質を安定した物質に変える能力についての研究が今後もっと進展しなければならないでしょう。

 1945年8月6日,広島の原爆によって75年間(あるいは70年間)不毛の地となると言われました。しかし,草一本生えないという予想を覆し,土壌も改良されました。微生物の働きのおかげです。また,被爆者の中には,大豆の発酵食品である味噌などを多く摂取した人たちの中には,被爆障害を発症する率が少なかったという研究もあります。広島の被曝者(外部被曝)が「微生物を飲んだら白血球の数が正常値に戻り,免疫力も向上し,風邪もひかなくなった。」という報告もあります。

 ミトコンドリアを含む体内微生物の活性化をもっと研究することによって,被曝障害を防いだり軽減することができる新しい分野を見出せます。

 基本的人権(11条),生存権(25条),幸福追求権(13条)の憲法に従って,災害 の復旧,復興,再建は迅速に行われるように,万人がひとりのために,ひとりが万人のために,被災者たちに寄り添いましょう。

 「更に,あなたがたは今がどんな時であるかを知っています。あなたがたが眠りから覚めるべき時が既に来ています。今や,わたしたちが信仰に入ったころよりも,救いは近づいているからです。夜は更け,日は近づいた。だから,闇の行いを脱ぎ捨てて光の武具を身に着けましょう。」(ローマ 13章11,12節)と聖書に書かれています。拝金主義の経済優先から目ざめる「時」が来たのです。

 自己中心の利己的,弱肉強食の優勝劣敗の法則に基づいた近代国家形成を精算して,心のエネルギーを大切にする時代の刷新に入るのです。富を追求し,経済的に安定した生活を理想とするために,いつしか自然界と共存していくこともなおざりにしてきたのです。私たちを幸福にするのはお金,社会的地位,知識ではありません。どこかに置いてきてしまった「心」を取り戻さねばなりません。150年前の明治維新による脱亜入欧,富国強兵政策,拝金主義を見直し,2011年3月11日を新しい日本を刷新する転換点としましょう。       

                                             以上

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